東京高等裁判所 昭和63年(ラ)680号 決定 1989年8月22日
抗告人(破産者) 甲野花子
右代理人弁護士 吉益信治
主文
原決定を取り消す。
抗告人を免責する。
理由
一 本件抗告の趣旨は主文と同旨であり、その理由は別紙準備書面(一)、(二)記載のとおりである。
二 そこで検討するに、本件記録によれば、抗告人は、千代田トラスト株式会社(合併前の旧商号千代田ファクター株式会社、以下「千代田トラスト」という。)ほか五名に対し約三〇一七万円の債務を負担して支払不能の状態に陥り、昭和六三年三月七日東京地方裁判所に自己破産の申立てをし、同年四月二七日同裁判所において破産宣告を受け、同時に破産財団をもって破産手続の費用を償うに足りないとして破産廃止決定を受けたこと、抗告人は、昭和六二年一〇月二七日、千代田トラストのため抗告人名義の別紙物件目録記載の不動産(以下「本件不動産」という。)に譲渡担保を設定して、千代田トラストから二八〇〇万円を、弁済期日昭和六四年一二月五日、利息年一一・〇パーセント、遅延損害金年二九・二パーセントの約定で借り受けたが、本件不動産は、抗告人がその所有者である夫太郎に無断で、昭和六二年三月一二日抗告人名義に所有権移転登記を経由したものであることが認められ、右事実によれば、抗告人には、一応破産法三六六条ノ九第二号に該当する事由があるものといえる。
しかしながら、本件記録によれば、抗告人は、主婦として家計を補うため、太郎に無断でいわゆるサラ金業者から融資を受けるうち、その金額が累積し利息の支払にも窮するようになったが、以前同様の理由で太郎や双方の親兄弟に迷惑をかけていたので、同人らに相談することもできず、一人思い悩み相談に赴いたサラ金救済センターで、その相談員と称する茂木保夫(以下「茂木」という。)から太郎名義の本件不動産があることに目を付けられ、茂木に紹介を受けたサラ金業者から本件不動産を担保に一〇〇万円の融資を受けたのを発端として、茂木からの同人への貸付の強請や本件不動産を担保に借り受けたサラ金業者からの返済の強請に従って、サラ金業者らから本件不動産を担保に借増し・借替えを重ね、その間にサラ金業者から担保提供の便宜のため促されて前示のとおり本件不動産の名義を抗告人に移転し、最終的に千代田トラストから前示の融資を受けて本件不動産を担保とする従前の債務を弁済したこと、借増し、借替えにより取得した金銭の殆どは前払利息、仲介料、茂木への貸付に充てられてしまったが、抗告人は、昭和六二年一一月ころまでは手元に残った残金等からサラ金業者に対する返済を継続したこと、原決定後の平成元年一月二六日、太郎と千代田トラストとの間に抗告人を利害関係人に加えて裁判上の和解が成立し、同和解において、太郎は抗告人が千代田トラストに対し負担する前記債務を重畳的に引き受けたうえ、千代田トラストに対し本件不動産を二九〇〇万円で売却して明け渡し、右債務の内金二二七五万二五〇九円と右売買代金とを対当額で相殺し、千代田トラストは太郎及び抗告人に対する残債権を放棄したこと、本件免責の申立てについて検察官及び債権者からの異議申立てはなかったことが認められる。
右事実によれば、抗告人の前示行為は軽微とはいい難いが、茂木及びサラ金業者らのくいものにされた面もあってその不誠実性の程度はそれほど著しいものではなく、千代田トラストとしても登記簿面の記載や紹介者等からこのようなことのあるべきことを予測し、あらかじめ慎重な調査を遂げれば被害にあわずに済んだとも考えられ、千代田トラストに対しては裁判上の和解により一応の被害の回復がされ、抗告人を免責することについて関係者からの異議申立てもないことを考慮すると、本件においては、抗告人に対し、その経済的更生を容易にするため、裁量により免責を許可するのが相当である。
三 よって、原決定を取り消し、抗告人に対し免責を許可することとし、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 丹野達 裁判官 加茂紀久男 河合治夫)
<以下省略>